さらば冬のかもめ

原題：THE LAST DETAIL
監督： ハル・アシュビー
製作： ジェラルド・エアーズ
原作： ダリル・ポニックサン
脚本： ロバート・タウン
撮影： マイケル・チャップマン
音楽： ジョニー・マンデル
上映時間 104分
１９７３年/アメリカ映画
出演： ジャック・ニコルソン、ランディ・クエイド、オーティス・ヤング、クリフトン・ジェームズ 、キャロル・ケイン、 マイケル・モリアーティ

短く刈り込んだ髪に口髭、細い葉巻をくわえ、腕には鳥の刺青。登場するなり第一声が「Tell MAA to go fuck himself」この後、「マザー・ファッカー」と何回発したことか（笑）。ジャック演じるバダスキーはノーフォーク海軍基地の下士官。品行方正とは言いがたいバダスキーに与えられた任務は、１７才の窃盗犯をポーツマス海軍刑務所まで護送すること。同僚のマルホール（オーティス・ヤング）も一緒です。

窃盗犯の名前はラリー・メドウズ（ランディ・クエイド）、基地内の小児麻痺献金箱から４０ドルを盗んだ罪で、８年間の懲役刑が言い渡されます。メドウスには盗癖があり（手錠をかけられ護送されている時に菓子を万引きする）献金箱に手をつけたのは、悪い癖が出てしまったからでしょうね。それに対して懲役８年とは・・・・献金箱が福祉活動好きの基地司令官夫人が設置したものだったことが罪を重くしました。ヴェトナム戦争の末期、組織は正常に機能していなかったのかもしれません。



バダスキーとマルホールは、薄ぼんやりとした、少しばかり知能が足りなさそうなメドウズに同情し、目的地に着くまでの５日間の旅の間に、人生の何たるかをみせてやることにします。バダスキーが周りに対して不遜な態度をとっているのは、彼が他人のことを気にもとめていないのではなくて、人間の感情を誰よりも敏感に感じ取ってしまうから。それゆえ、弱っている人がいれば助けてやりたいと思ってしまうのです。未成年のメドウズに酒をたらふく飲ませ、生まれ故郷に彼の母親を訪ね、海兵隊と派手な喧嘩をし、売春宿で娼婦をあてがう・・・すべて、メドウズに男としての自信を持たせるためでした。

男３人の可笑しくもほろ苦いロードムービーは意外な終わり方をします。気が弱く自分というものがないかのようであったメドウズの心の中に芽生えたさまざまな感情。自由を謳歌したいという気持ちもそのひとつでしょう。メドウズは逃亡を企てます。バタスキーの思いやりがこんな結果を招くとは・・・やり切れないですね。

到着の遅れとメドウの扱いに対して文句をたれる担当官に「用紙の控えを受け取ってませんぜ」と、事務手続きの小さなミスを指摘するバダスキー。帰り道「一発かましてやった、あの野郎、控えを忘れてやがった」と話す彼は精一杯虚勢を張っているように見えます。

監督のハル・アシュビーは『シャンプー』『帰郷』『チャンス』など、時代に合った感性で次々に優れた作品を作り出しました。本作では海軍の規則尊重主義を静かなユーモアを交えて皮肉っています。その演出方法は細かな注文をつけず、ほとんどを俳優に任せるというもの。シンプルな画面構成とストーリーの中、俳優たちは自然に自由に伸び伸びと演じています。