「管球探検」あらため、古いオーディオ機器のページ


二年ほど前、知り合いが雑誌「管球王国」に掲載されていた上杉佳郎氏設計のTAP3というアンプのキット(部品セット)を買った。だが、なかなか出来上がる気配がないので、お節介な僕は「真空管アンプ作りを大好きな友人がいるので、彼に依頼すれば二日で組み立てるだろう」と囁いた。実際、友人横田兵作氏は二日間で完成させ、僕のスタジオで試聴した。

GOLDMUNDのmm8から、このアンプ(EL34 出力約15w)に替えても、特に情けない音になるという事は無い。僕が使っているKEF105 3sというスピーカーの能率が高いせいもあって、エアボリュームの大きい僕のスタジオでかなりの音量を出したがクリップしたのは一度だけで、不足を感じるどころか、むしろこちらの方が音楽的とも言えるサウンドが展開された。「ワイドレンジではないが中低域の密度が高く、mm8に比べれば温度感が高く、潤いのある音」という、それはまさしくGOLDMUNDのアナログプレーヤーとガラード+FR64Sの比較とも共通するものだった。そんなに良いのなら何故こちらに乗り換えないのかと言われそうだが、「僕はmm8の、音像は小さく、そして左右上下に広がる表現を好んでいる」から、買い替えはしない。だが、世の中には色々な形式や、色々な規格のオーディオ機器が存在する。あまり固く考えずに、あれこれ楽しめたら、楽しんだが勝ちなのではないだろうか?


アブソールのHS-4を借りてきいてみた。EL34プッシュプルだから、出力は30Wか35Wというところだろう。ゴールデンドラゴンでも悪くないが、TESLAの球(「管球王国」第一号の試聴記ではイマイチ評価の低かった真空管だけど)に替えただけで、驚くほど音が滑らかになり音場感も変化した。新品で買っても20万前半で買えるアンプとは思えない密度感の高い音質とドライブ能力に驚く。声や弦やギター(つまり中域)がすごく肉感的になり、太めで底力のある低域はとても魅力的だ。そして高さもちゃんと出る。値段も高くないし、濃密な音が好きな人や、クールな音のスピーカーを使用してる人には絶対的におすすめ出来る。僕は一日15時間も使う事が度々あり、春夏秋はかなり暑いから、冬期のみアブソールをきいて、それ以外はmm8という使い分けが出来たらそれも良い。


イソダエレクトリック製アンプ パラディオンの超美音には「まいった」

僕は長い間ISODAハイブリッドケーブルを使っている。最近はMIT 330との混合になったが、それまではずっとインターコネクトもSPケーブルもISODAオンリーだった。何年か前に礒田さんがEL34を使ったアンプを作ったのは知っていたが、雑誌の記事を見ただけで実物は見たことがなかった。2000年の夏、近所のサウンドクリエイトに寄ると、このアンプが置いてあった。LINNのクライマクッスの下取りでWEのスピーカーと共に引き取ったそうだ。

このアンプには興味があったので、借りてきいてみたのは確か7月だった。例の如くmm8の代わりに入れて音を出したのだが、なんだかパッとしない音だった。そして、5分ほどきいていたら「パツッ」という音がして抵抗か何かが焼けこげる臭い匂いが立ちこめた。サウンドクリエイトの藤井さんは「これはまずいですね、スピーカーを壊さなくて良かった」と言って持って帰ってしまった。 

それでも、まだ音を確かめたいと思った僕は、このアンプをサウンドクリエイトから借りて修理をし、完璧な状態できいてみたいと考えた。まず友人の横田氏に見てもらったが、「このアンプは尋常じゃないつくりだから、手が出せない」と言う。若い頃から真空管アンプ製作をやっている彼が言うのだから間違いない。仕方がないので、名古屋のゴトウ総合音響の後藤さんに電話すると、「あのアンプは特殊だからねえ」と言う。そして、修理なら大阪の「ハイブリッドサウンド」に連絡してごらんと教えてくれた。「ハイブリッドサウンド」に電話をし、今はリタイアして和歌山に住む礒田行智氏の連絡先を教えてもらい、僕はついにこのアンプの製作者と直接話をすることになった。

ISODAケーブルの愛用者である事を説明し、(インターコネクトだけで3種類8セット、SPケーブルが二種類、それに電源タップもある)「偶然パラディオンを見つけたが、スイッチを入れると煙が出て、一部抵抗が焼けこげている」と説明すると、「私が作った物ですから、送っていただければ直します。修理代は部品代程度です」という答えだった。初めて話をする礒田氏の上品で丁寧な対応が印象的だった。

3週間ほど経ち礒田氏から「ほぼ完調になったので、2〜3日ランニングさせて、オーケーなら送ります」という電話が入り、その数日後の朝、スタジオに来るとパラディオンは届いていた。

 

パラディオンの外観はシルバーの仕上げで非常に美しい。3系統の入力切替とボリューム&バランスの調整が出来るのでプリメインアンプのような使い方が出来る。それにしても、ここに出てくるアンプってEL34ばかりだなあ。もちろんこの三台はまるで違う音だったけど、今度は他の真空管を使ったアンプの音をきいてみたい。僕は管球初心者だから、845とか211の音を体験したいと思っている。誰か持ってきてきかせてくれないかなあ。

最初は例の如くプリアンプを使って接続して音を出した。もちろん、小音量でCD一枚かけてから音をチェックした。非常に柔らかな音質で、すごく悪いとも思わなかったが、すごく良いとも思えなかった。という事は、ハッキリ言うとダメだった。しばらくきいた後、このアンプはセレクターとボリュームがついているので、プリを通さずフォノイコを直接つないでみた。「管球王国」の創刊号で「マランツ9」にはプリアンプを使用しなかったと書いてあったのを思い出したからだ。

この状態でLP(ハイドンのチェロ協奏曲第一番 ホグウッド指揮のオワゾリール盤)をきいてみると、素晴らしく美しい響きが再生された。夜中にこのアンプで弦楽器のレコードをきくと、あまりの美しさに魅了され、時の経つのを忘れてしまう。弦楽器や木管など、ふくよかさが求められるソースへの相性は抜群で、二日連続で僕は夜中の3時まで音楽をきいた。こんな事も三週間ぶりだ。もしやと思いSACDも接続してみたが、こちらは「?????」だった。ヨーヨー・マのコダーイは馬鹿馬鹿しくなり、途中できくのをやめた。SACDは細かな細かな情報量を出してくるのが特徴だが、パラディオンはそれらを隠そうとするのが持ち味で、水と油のようだった。よく、「古い録音のソースには古い機器が良い」という人がいるが、そういうわけでもない。新しい録音も古い音にしてしまうような音だ。実はDr.Y氏からタンノイのIIILZを拝借する事になっているのだが、ISODAパラディオンがあれば、KEF105のまま別の音で鳴ってしまう。つまり、架空セカンドオーディオが、アンプ一つで出現するというわけだ。

極上の演奏を上等なホールの快い響きで楽しむような、そういうサウンドだから、僕が普段追求している再生音楽の楽しみとは大きく路線が異なる。だが、これはこれですごく良いと言うか、オーディオとは何かという事を(上品で美音だから、突きつけたりはせず)ジワっと考えさせられてしまう。反省させられると言ってもよい。それにしてもどうしたものか、僕はDAC選びに難航した結果、DAC+DD+電源でそこそこの金額を払う事になりそうだし、ここでパラディオンまで手に入れるのはいかがなものかと悩んでいる。第一、置く場所もない。ADプレーヤーを1台処分すれば場所も確保されるし、パラディオンの代金の一部にもなりそうではあるが、、。 ウーム。

と、悩んでいるとこのようなメールが届いた。

初めまして,山本様

突然メールを差し上げる失礼をお許し下さい.

山本様のホームページいつも興味深く拝見しています,橋野と
申します.毎日チェックして,更新されるのを楽しみにしている
Studio-K'sホームページのファンです.

さて,突然メールを差し上げようと思ったのは,山本様のホーム
ページにイソダのパラディオンの話が掲載されていたからです.
実は,パラディオンをサウンドクリエイトに下取りに出したのは,
私なんです.本当にびっくりしました.

今から7〜8年前,吉祥寺にあるディスクshowaで,パラゴン
につながれていたパラディオンの音に触れ,一瞬で気に入り購入しました.
(それまでにも,イソダのハイブリッドケーブルや電源ケーブル,
スピーカーケーブル,タップ(HZ-5P)などを使っていました)

パラディオンの濃い音に惹かれてずーっと愛用していましたが,
サウンドクリエイトに出入りするようになるうちにKLIMAXを自宅試聴
する機会を得,ある1枚のCD(ザンデルリンクのブラームス第4番)
を聞いた瞬間に風のようにふわーっと,しかも実体感をもっておしよせる
弦にこれもまた一瞬のうちに魅了されてしまいました.
いてもたってもいられず,無理を承知でKLIMAXを購入することにしたため,
パラディオンを手放すことになったしだいです.

まだ,ご購入なさるかどうか決定されていないようですが,情熱をもって
オーディオに取り組み,音楽を愛されている山本様のもとで,パラディオンが
使われることになれば,私としてもとってもうれしく思います.

本当に不躾なメールをお送りして申し訳ございません.
なんだかとてもうれしい気分になったため,失礼を承知でメールしたしだいです.

お仕事のますますのご発展をお祈りしております.

P.S. お使いになってすぐに故障したみたいで,申し訳ありません.
   下取りに出す直前まで快調に音楽を奏でていてくれたのですが...
ソケットの不良で,磯田さんに修理をお願いしたことがありましたが,
抵抗が焼けるとは.びっくりしました.

 うーん、 こうなってしまっては身請けするしかないではないか。だが、どうやって資金をつくろうか。  2000.10.15


Dr.Y氏がTANNOYのIIILZとオーディオノートのカートリッジを貸してくれた。IIILZをセットして僕のメインのアンプであるパスラボとゴールドムントできくと、低音がまったくない。そういえば知り合いが「TANOYってハナをつまんだような音がする」と言っていたっけ。あれはこの音の事だったのかと瞬間的に理解した。これはこのまま一週間鳴らしたところでダメだろうと判断してパラディオンで鳴らしてみた。するとどうだ、これは見事な再生音が奏でられるではないか。IIILZ+パラディオンは僕がいつもきいているKEF105 3s+現代的アンプのバランスになる。これにはまいった。やっぱりオーディオは面白くてやめられない。

TANNOYのIIILZをKEFと同じセッティング、つまり壁からうんと離したフリースタンディングの状態できくとひどい音がする。それでもISODAパラディオンできくと、すごくまともな音になるのではあるが、、、、。ある夜、SISの大野さんがやってきて、置いてあったIIILZを見て「おッ、IIILZ。こいつは美品ですね、ゴールドなら25万で軽く右から左でしょう。現金15でいかがですか? 秋葉原のJオーディオなら上代35ってところですかね」などと言う。僕は「安田さんもどうせ使ってないんだから売っしまって紹介料でももらいましょうか」なんて冗談を交わした。大野さんはKEFのとなりにあったスタンドを見て、「山本さんこんな置き方できいているんですか? これはいけません。IIILZは出来れば四畳半の和室の壁ぎわに置いて、モノラルのソースをきかなくちゃ良さも出ません」と言う。大野さんは「架空セカンドシステムには古いTANNOYかな」と言うだけあってIIILZの扱いにはうるさい。

そんなわけで、僕は本当にスタジオ内の四畳半にIIILZを置いてみた。アンプはとりあえず家から持ってきた「三栄無線 A級10w、MOS-FET」キット(少し改造)で鳴らしてみた。このアンプはGOLDMUNDのmm8の代わりに入れてKEFを鳴らしても特別な不満はなく(両方とも日立のFETだからか?)、似たような音がする。それに暗室で使っているPHILIPSのポータブルCDプレーヤーをつなげて音を出してみた。必要ならオーディオクラフトのラインプリ「PL1000」もある。

この組み合わせで、言われた通りIIILZは壁に近づけて置いて音を出してみた。こちらではヨーヨー・マじゃなくて、シュタルケルのコダーイをきいてみた。なるほど、こりゃあ「いぶし銀」である。こうして二週間も音を出せば本領発揮だろう。ISODAのアンプもつなげてみたい。いやいや、楽しませていただいております。      2000.11.1

SISの大野さんがスタジオに来たので、IIILZをきいてもらった。アンプはISODAできいた。大野さんは自宅で非常に緻密なサウンドを展開している人だが、この手の古い音も欲しいらしく、ずっとIIILZの前を離れず、「いいなあ」とか「自宅にもう1セット置けるかな」などと言っている。クラシックも良いけど、古いジャズもいける。僕は「持ち主には僕から交渉いたしましょうか? SISの買い取り金額+αぐらいでいかが?」などと言ってニヤニヤしている。


このところマランツMODEL8Bだのフッターマンだのを使っているので、「僕のオーディオ装置」の方が古いオーディオ機器のページになってしまった。やはりオーディオはわからない事が多い。うまくつかってあげさえすれば、良い面を発揮して上手にうたう。DACみたいな物を除けば、最新の機器だけが良いという事もなさそうだ。

今の興味はやっぱりOTLアンプかな  2000.12.21


スペンドールBCIIとKEF105 3s

僕にとって、10畳ぐらいの部屋で、ごく普通に音楽を楽しむなら、このタイプに勝る物はない

かつて使っていたロジャースのStudio1aもすごく良かったし、やっぱり僕はイギリス製のスピーカーをとても好んでいるようだ

これらは、一見素直そうだけどアキュフェーズのアンプじゃうまく鳴らないあたりに手強さがあり、アンプを選ぶ楽しみもあってなかなか楽しいと言うか、頼もしいというか、一筋縄ではいかないところが、かわいらしくもある

なんと、Dr.Y氏のお宅にはこんなプリ&パワーアンプがあるそうだ。Lecsonと言って、メリディアンの前身だとか今度、本物を見せてもらおう

音はともかく、どうしてこんなにチャーミングなんだろう。これに匹敵する国産のオーディオ機器はと考えると、日本人のデザインではないが、YAMAHAのカセットデッキぐらいしか思いつかない

メリディアンの、羊羹をつなげていくようなアンプもなかなかのデザインだし、僕の架空セカンドオーディオも変更したくなってしまう

それにしても、こんな機器に合うスピーカーって何があるんだろう?

つづく


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