心に残る7冊の

大塚隆史 おおつか たかし 1948年生 ゲイバー「タックスノット」経営

大塚さんは造形作家だし、執筆活動もしてるから文筆家でもあります。僕(山本)もカメラマンで、手話通訳者で(うんと昔だけど)、陶器商で、演奏会の企画もやったりするから、そういう面で共通点が沢山ある。

☆タックスノットのHPはとてもセンスが良く、面白く、ためにもなるので山本耕司のおすすめサイトの筆頭です。僕の友人には「ゲイろはカルタ」のファンが沢山いる。

○「ニュー・ジョイ・オブ・ゲイ・セックス」

 チャールズ・シルヴァースタイン&フェリス・ピカーノ/著 伏見憲明/監修 白夜書房刊 ¥2900

◎性の快楽追求とゲイリブの政治信条を全く同じ土俵に載せ、同じ口調で論じてみせる本の作り方そのものに一番共感できた本。ノンケの方々でも覗き見的に楽しめるかも…。

○「フロント・ランナー」 

 パトリシア・ネル・ウォーレン/著 北丸雄二/訳 扶桑社刊 ¥?

◎女性が書いたゲイ恋愛ノヴェルの傑作! エイズ禍以前の、その意味ではのどかな時代の甘く切ないゲイの恋愛が本当によく描けてる。泣けます!

○「クイアー・イン・アメリカ」

 ミケランジェロ・シニョリレ/著 川崎浩利/訳 パンドラ/現代書館刊 ¥2300

◎アウティング(本人が隠しているゲイであることを第三者もしくは社会に公表すること)の是非を扱った本。ラジカルなゲイリブが目指しているものは何なのか?

○「ゲイ文化の主役たち/ソクラテスからシニョリレまで」 

 ポール・ラッセル/著 米塚真治/訳 青土社刊 ¥3400

◎現代のゲイ&レズビアン社会に対して大きな影響を及ぼした人を100人選んで、その人の影響力を論じた本。異論がたくさん出てきそうな人選ではあるが、面白かった。

○「無境界/自己成長のセラピー論」

 ケン・ウィルバー/著 吉福伸逸/訳 平河出版社刊 ¥2000 

◎自己が成長していく過程で、われわれが体験の中に持ち込む自己と非自己の境界が、いかにしてわれわれの意識を限定−分裂、葛藤、戦い−するかを説いた本。ケン・ウィルバーの著作の中では読みやすいもので、僕のものの考え方に大きな影響を与えてくれた。

○「危険は承知/デレク・ジャーマンの遺言」

 デレク・ジャーマン/著 大塚隆史/訳 アップリンク/河出書房新社刊 ¥1800

◎なぜジャーマンがこれほどノンケ社会に対して怒っているのか? その怒りだけは痛いほど理解している人間が訳すべきだと、無謀にも翻訳を引き受けた僕にとって思い入れの強い本。

○「森の息子」 

 西野浩司/著 文化社刊 ¥1600

◎今の日本で、ゲイがどんな生活をしているのかを伝えてくれる小説はほとんどない。ここに出てくるゲイが日本のゲイの平均的な姿ではないかもしれないが、僕が毎日のように付き合っている大勢のゲイのありようが実によく描かれている。


20代で心に残った本BEST10

則島香代子 のりしま かよこ 1968年生まれ 新聞社勤務

1「氷点」「続・氷点」  三浦綾子著  朝日文庫

20才の夏。一浪して上京し、大学に入った夏休み。なかなか友人が出来なくて悩んでいたとき、「いい人でいいんだ」と目の前がひらけた本。 

2「ノルウェイの森」 村上春樹著 講談社

20才の冬。クリスマスのような赤と緑の表紙は買うときワクワクした。リアルな内容に「これが純愛?」とこれまでの゛純愛認識″を改めた。

3「恋愛論」 スタンダール著 新潮文庫

23才の冬。卒論を書きながら、目につく本を片っ端から読んでいた中一番心に残った本。卒論のテーマ「ジョン・ダーンの詩における誘惑論」にもからみ、いっぱい線を引いてある。恋愛について悩んだとき論理的に気持をほぐしてくれる。

4「放浪記」 林芙美子著 新潮文庫

24才の春入社したころ。私の友人の小学校のスローガンに「おはよう。ありがとう。なにくそ。」というのがる。その「なにくそ」という気持にさせてくれる本。人生何があってもがんばるぞーという本。この本に感動して尾道に行くと、海の見える坂の上に林芙美子の石碑があった。

5「深夜特急」 沢木耕太郎著 新潮文庫

25才ごろ。仕事で文章を書いていて沢木さんの文章はお手本にしたいと思った。難しいことをカンタンな言葉で書くことはとてもむずかしい。切ると血のにじむような文を書けと教えられた。

6「サザンスコール」 高樹のぶ子

26才のころ? 当時の私にとってすごく官能的で、読み終わった後温かくて湿った風が吹き去った気分だった。

7「大和古路風物誌」亀井勝一郎 新潮文庫

27才のころ。寺に行くのが好きになった。和辻哲郎「古寺巡礼」もいいけど、こちらを先に読んだので。好きなのは人のいない寺。それにしても、弥勒菩薩の美しさは涙が出ます。奈良なら法隆寺中宮寺、京都なら太泰(うずまさ)広隆寺。

8「千日回峰行」 光永覚道 春秋社

27才春。100キロマラソンに挑戦する前、偶然、雑誌「ランナーズ」の対談の下調べ用に手にした本。いろんな挫折に苦しんでいた頃、お坊さんの教えは心にしみた。苦しい時の支えになる本。

 無財の七施=むざいのしちせ(物を施すことが出来なくても、施しを行うことができる)

 @ 眼施  人に良い眼をして施すこと

 A 和顔悦色施 いつもやさしい顔、微笑みをたやさぬことをする

 B 言辞施 やわらかい言葉

 C 身施 礼儀正しく人に接する

 D 心施 善意をもって人に接する

 E 牀座施=しょうざせ 他人に席を譲ること

 F 房舎施 人を泊めてあげること

 当たり前だけどナカナカ出来てない。

9「吉原はこんな所でございました」福田利子 教養文庫

28才夏? 吉原とか昔の風俗にはかなり以前から興味があって、永井荷風なども読んでいた。吉原で働く人の内側からの視点はこの本がはじめてで、いろいろわかってナットクした。

10「愛するということ」 田宮虎彦 東都書房

29才の春。お彼岸に帰省したとき、実家の蔵書の中から発見した母の本。シクラメンの装丁で箱入りの美しい本の裏表紙には「昭和32年6月15日宇都宮にて求む」のメモ書きが、、、。母が29才の時に読んだ本だった。この作者は結論を言わない。愛するということはどういうことなのか知りたかったがどこにも書いてはなく、むしろ自分で考えるきっかけになる本。

 * 則島さんはどうしても7冊にしぼれず10冊になりました。 


山本耕司 やまもと こうじ 1952年生まれ カメラマン

☆「なんで山登るねん」「続・なんで山登るねん」高田直樹著 山と渓谷社

もしも僕(山本耕司)の行動や発想に対して、「世の常識にとらわれない何か」を感じてもらえているならば、それは20代で出会ったこの本によってかなり強化されたと言える。何年かごとに読み返し、その都度「既成概念にとらわれず感覚的に生きる」ための支えにしている。

☆ 「髪の花」 小林美代子 講談社

私たちが精神を病んでいないという保証はどこにもない。人間は弱く、真面目であろうとすればするほど、まともじゃいられない。正気と狂気のギリギリをえがいた小林美代子の短編集はずっと心に引っかかっている。 

☆ 「2丁目からウロコ」 大塚隆史著 翔泳社

僕は女性が大好きで、ゲイの人たちからは「ノンケ」と呼ばれる普通の男の代表です。でも、大塚さんとは何故か通じるものがあり、彼はとても大切な友人です。大塚さんが書いたこの本を読んで、僕は目からウロコを沢山落とした。公立図書館の蔵書にはなりそうにないので、友人達にこの本を貸し出しては友人達のウロコも沢山落としている。この部分を読んだ磐田市在住の友人が近所の図書館にリクエストを出したら買ってくれたそうです。やったね。

☆ 「長田弘の詩集」

長田弘の詩集はみんな良い。「世界は一冊の本」もいいし、「記憶のつくり方」もいい。この感じは何に例えたらいいんだろう、正直で誠実で懐かしくて、あまり変化しないけど一番大切なもの、そんな感じかな。

☆ 「パン屋再襲撃」 村上春樹著

村上春樹の小説で一番好きなのは「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」なんだけど、「パン屋再襲撃」は別の意味で衝撃を与えられた。20代の僕は今で言うフリーターで、労働を拒否していたのだが、写真を撮るという行為は「さまよえるオランダ人」をきくに等しかったってわけだ。

☆「秀吉と利休」 野上彌生子著

若い頃は茶道なんて堅苦しくて形式的でバカバカしいと思っていた。だが、ある年齢から突然「そうか茶道ってこういう事だったのか」と勝手に理解して茶道が気になり始めた。赤瀬川原平の「千利休 無言の前衛」もすごく面白かった。 

☆「日本語の作文技術」 本田勝一著

文章に対して長いこと疑問に思っていた事や、漠然と「こうじゃないかな」って思っていた事がとてもスッキリと整理された。文を書くなら、非常に役立つ本です。


新井 由己  あらい よしみ  1965年生まれ  ルポライター

著書に「とことんおでん紀行」があります。詳しくはHPを見て下さい。
http://www.yu-min.jp/

おでん博物館にもお越しください!
http://www.odengaku.net/

『キラキラ星のジッタ』夢枕獏/集英社文庫コバルトシリーズ/1980(16歳)

 ロマンチックメルヘンと呼ばれる小説の短編集。この中に掲載されている「そして夢雪蝶は光のなか」という作品を読んで、文章で初めて涙を流した。当時、夢枕獏はまだ無名で、氏の物語に対する姿勢にも影響を受けながら現在に至る。特に、「リアリズムがファンタジィを生む」という考え方は、文章を書くうえで今でも心に置いている点である。

『二小節の詩−さだまさし365の断章−』さだまさし/自由書館/1983(18歳)

 中学生のころに好きだった歌手がつぶやいた言葉の断片集。いろんな意味で、感受性を高められた一冊である。いつ死んでもいいように今を大事にして一歩ずつ歩いていくことや、自分の生き方を信じることを教えられた。

『寒山の森から』田淵義雄/晶文社出版/1986(21歳)

 アウトドア雑誌『ピーパル』に連載されていたころから田淵さんの生き方に憧れ、田舎で文章を書いていこうと決意する。この本によって、人は、自分の好きな場所で、自分の好きな人や動物たちと暮らし、好きなことをしてもいいんだと悟った(開き直った)。特に、自然のなかで生活をしたいと思っていた僕にとって、その暮らしぶりは魅力である。後に、遠藤ケイというさらに好きな作家に出会う。

『日本人をやめる方法』杉本良夫/ほんの木/1990(25歳)

 いい大学でいい会社というような、“社会のレール”に乗ることを避けてきた僕にとって、この本はインパクトがあった。ちょうど、海外の旅を繰り返す生活と外国人労働者の問題に矛盾を感じていたころで、本気で海外移住を考えていた。けっきょく、この本を読んで、僕は「在日日本人」であることを選択する。※最近、ちくま文庫で文庫化された。

『散るアメリカ』吉岡忍/中公文庫/1989(26歳)

 日本で文章を書いて生活することを決意したころに出会った一冊。足立倫行や久田恵をはじめ、当時40代で活躍していたノンフィクション作家のひとりで、この時期に彼らの作品を読み漁った。この本は3か月間アメリカを取材した著者が自動車産業をとおしてアメリカ社会や日本社会を見つめる内容で、ルポのような旅行記になっている。文章はややセンチメンタルな部分があるが、取材の方法や視点の置き方について、かなり影響を受けた。※原本『ガリバーと巨人の握手』中央公論社/1985

『日本海のイカ』足立倫行/新潮文庫/1991(28歳)

 日本の観光地やいたる所で売られているイカに関心を持った著者が、日本海沿いの各地でイカ釣り漁船に乗りながら、イカを通じて日本社会や日本人のことをあぶりだした傑作。テーマの選び方もさることながら、人物の描写も生き生きしている。

現在、僕が目標としている作品。※原本『日本海のイカ』情報センター出版局/1985

『食味往来』河野友美/中公文庫/1990初版・1994再版(30歳)

 日本各地で食べられている食べ物には、それぞれ伝播の道があり、それを体系的に教えてくれた一冊。同じ食べ物を広範囲に食べ歩いて、その味の違いから各地の文化や歴史を見ていくことをテーマに選んだころにこの本に出会ったのは幸運だった。というわけで、32歳のときに“おでん探求”の旅に出て、最初の本を書きました。※原本『食べものの道』三嶺書房/1987


坂井聡一郎 さかいそういちろう 1956年生まれ 編集者

「ピンポン」全5巻 松本大洋 小学館

卓球に自分の生き方を燃やす高校生たちの物語。といっても熱血ものとはちょっと違う、クールなスタンスをとっているけれど熱い。抜群におもしろいスポーツ漫画。

「鉄コン筋クリート」全3巻 松本大洋 小学館

いつかの、どこかの街、宝町。そこで生きるシロとクロ。彼らは二人で一人。せつなく、悲しく、幸せなお話。

「真夜中の弥次さん喜多さん」全2巻 しりあがり寿 マガジンハウス

ヤジさんとキタさんは恋人同士。ヤク中のキタさんを直すため、二人はお伊勢参りへ。リアルと夢のはざまを彷徨う「シュールな東海道中膝栗毛」。

「クシー君の発明」 鴨沢祐仁 青林堂

ウサギと一緒に夜の町へ出かけるクーシー少年。そこはファンタジックな不思議がいっぱい。

「遠くへいきたい」 とり・みき 河出書房新社

訳もわからなく、力なく笑ってしまう9こま漫画。

「青い車」 よしもとよしとも イースト・プレス

痛い心や記憶を持って、みんな、今日もそれなりに生きていきます。

「猟奇王」全3巻 川崎ゆきお チャンネルゼロ

猟奇とロマンを求め、怪盗の猟奇王は走り続ける。ただ走り続ける。みんなもただ走り続ける。それだけの話。70年代前半のガロに掲載されていた。


黒岩比佐子 くろいわひさこ 1958年生まれ フリーランス・ライター

ホームページに、井上孝治さんの写真集まで載せていただいて、ありがとうございました(最近の出会い総集編をご覧下さい)。お礼に、というのも変ですが、リクエストのあった7冊の本について書きましたので、お送りします。7冊なんて無慈悲だなあ、と思いましたが、何とか絞りました。

1『ムーン・パレス』 ポール・オースター著 柴田元幸訳 新潮社
 主人公M・S・フォッグの前半の超貧乏生活、老人の相手をするアルバイト、その後、実の父親が登場して絡んでくる。とにかく面白かった。ポール・オースターは他の作品もいい。
2『もの食う人々』 辺見庸著 共同通信社
 残飯を食べる人、飢え死にの一歩手前の人、戦火の中で、刑務所の中で“食べる人”を追ったルポ。実際に、著者が何でも食べているところがすごい。
3『犠牲 サクリファイス』 柳田邦男著 文藝春秋
 一気に読んでしまった。高名なノンフィクション作家が、家族のことをここまであからさまに書いたという点では、読むのが辛い。人の命、死について考えさせられる。
4『ご冗談でしょう、ファインマンさん』他「ファインマンさん」シリーズ
 R・P・ファインマン著 大貫昌子訳 岩波書店
 ノーベル賞物理学者の自伝だが、これがめっぽう面白くてたまらない!! 天才はやはりどこかが違う……。
5『覇者の驕り(上・下)』 D・ハルバースタム著 高橋伯夫訳 新潮社
 日米の自動車産業の栄枯盛衰を描いた壮大なノンフィクション。これを読んだ時、こういうものを書けるライターになれたら……と夢見た。
6『宇宙からの帰還』 立花隆著 中央公論新社
 子供の頃、宇宙飛行士になりたかった。それだけに、本当に宇宙を飛んだ人々へのインタビューには興奮させられた。また「視点を変えて見る」ということを教えられた。
7『悪童日記』 アゴタ・クリストフ著 堀茂樹訳 早川書房
 これが処女作とは!! 双子の子供が、戦争という現実の中で知恵を巡らせて生き抜いていく。恐ろしい小説で戦慄させられた。


 ホームへ
 Studio K's 山本耕司
 このページに関するメールはこちら(Studio-k@tcn-catv.ne.jp)